ほんとうは、人生に必要なものなんてチョコレートチャンクスコーンひとつである。
ほんとうは、人生に必要なものなんてチョコレートチャンクスコーンひとつである、と書いている。新作の抹茶チーズケーキを、楽しみにしていたキャラメリーミルクコーヒーフラペチーノと合わせて食べながら。
なぜ抹茶チーズケーキを主題に置かなかったかというのは、チョコレートチャンクスコーンという言葉が持つ音が好きだからだ。明らかで、はっきりとして、あけすけのない。ただそれだけの理由だ。それはわりと、くだらない。
右耳に嵌めたワイヤレスイヤホン(これについて、詳しくは「一人で行うパーティのすゝめ」で読める)から好きなロックバンドの曲が最小の音量で流れて、左耳は隣にすわる女性二人の会話をキャッチし、そのままリリースする。私の耳は地獄耳というほどでもないけれど、この世にあるすべての音を拾っては脳みそへと届けようとする健気なものなので、私はそれにいつも、すごく、というよりはもう少しよわく、わざわざどうにかする程でもないけれど困るような、それくらいの程度の不便を、いつも。いつも、味わわされている。
それアンダースタンド。それアンダースタンド。
本当は、人生に必要なのはチョコレートチャンクスコーン。ひとつだけだ。
<古着屋で買った可愛い500円分、ちいさくて着れない服>
古着市に行った、500円のかわいいジップアップニットを買った、サイズは悪くなかった、帰ってから着ると服の型が体の形に合っていなかった、着れなくなったジップアップニット。色がかわいい。
閑話休題。
月の半分が過ぎた。三日月が浮かぶ。
今月の頭から新しい仕事を始めた。事務の仕事だった。
詰め込まれる膨大な量の情報に脳内回線が絡まってこんがらがって解けなくなって、そのときの脳みそはどんなかたちをしているんだろうか。きのう、今日。脳みそはほどけて定位置にと戻って行った。仕事ってやっぱり楽しいなと思った。
9時から17時の仕事だった。一日七時間。以前までの労働サイクルから一時間減るだけでこんなにも変わる生活。そのうちまた、新しいバイトもそこに加わる。これだけでは、生活していけやしないから。
アルバイトもほどほどに、そろそろデザインの勉強を再開したい。思い立った二月にデザイン指南書を一つ買って三周して、三月にまたひとつ新しいものを買って、けれども、転職活動と新しい仕事への疲労感とで、少しやすんでいた。忙殺とは言わないが、むしろ今月からは時間があまり余っているが、からだはひどく疲れていた。でも、そろそろ。そろそろ、起き上がりたい。
<駄菓子のチョコレートとコーヒー>
駄菓子屋さんによく売っている、カラフルでコーティングされた安いチョコ。よく輪形のプラスチックにたくさんがひとつずつ部屋を作られていて収まっていて、アルミホイルで蓋をされている。安いチョコレートはおいしい。コーヒーも美味しい。胃腸の弱いわたしに薄いコーヒーは優しい。
閑話休題。
恋人と別れて一ヶ月が経った。生活から彼女が消えた。たまに思い出したように、一緒に応援していたお笑い芸人の活躍を、その情報を送ってくれる。それに対して私がすごいよね、と返す。少しだけ会話が続いて、終わる。こんなふうにして、あのときはゼロ距離だった私たちの間の距離は、広がっていく。離れていく。届かなくなり、見えなくなる。ビトウィーン私、アンド彼女。元気でいてね
<連続する助詞はうつくしい>
文章を考えるとき、どうにかこうにか同じ助詞を連続で使わないようにする。意図的ではない場合は。意図的な場合は、そのうつくしさを含ませたいときだ。有名な歌人が、連続する助詞は美しく、またそれがそのまま詩になるんだと言っていたらしいと、この間知った。
この今日の私のブログの一説の、助詞の連続性の美しさの完璧さの。これを読むあなたの、明日からの新しい美しさの、ひとつの。
閑話休題。
新しい職場の人たちは優しい。最近はずっとどこかおかしな環境にばかり身を置くことが多かったから、例えば何かをひとつ間違えたとして、怒られないことに驚く。普通ってそうか、と思い出す。怒ることは必ずしも悪いことではないけれど、怒る必要がないことって、たくさんある。
かわいい先輩がいて、その人の造形がとても好きなので、たまにちらりと見やる。バレているかもしれない。もしそうだったら、開き直ってやろうかと思う。遠くから見る後ろ姿だけでかわいいのは、すごいと思う。彼氏と同棲しているらしい、クソ。
おれはかなしいです。
<ほんとうに必要なのは、チョコレートチャンクスコーンひとつ>
絶対飲みたい、飲もうと決めていた。キャラメリーミルクコーヒーフラペチーノ。一口飲んで、すごく美味しくて、よかったなと思った、キャラメルソースを追加して。フラペチーノを用意する淑女の店員さん。「ソースの追加はいかがですか?無料でできますよ」レジが終わった後でもそんなことお願いできるんだ。「美味しいですよ」チョコレートとキャラメル、どっちが合いますか?「キャラメルがおすすめです」ニッと笑ってくれてよかった。美味しかったからよかった。うれしいなと思った。
新作の抹茶チーズケーキ、ずっと気になっていた。ショーケースには並んでいなくて、食べ物はどうですか?と聞いてくれるお兄さんに抹茶チーズケーキは売り切れたんですねと言うと、わざわざ裏まで行って在庫の確認をしてくれた。うれしい。ありました!と笑顔で戻ってきて、うれしい。楽しんでくださいね!と手渡してくれて、うれしい。ありがとう。
本当に必要なのは、チョコレートチャンクスコーンひとつだ。それは、ティースプーン一杯分の余裕と、それを許す度量だ。対義語は底を尽きたのに高い歯磨き粉だ。
適当なことばかり考える、少しやさしくなる。
私は語感の良さで生きている節があって、たまによくないな(だけど、おもしろいな)
本当に必要なのは、チョコレートチャンクスコーンひとつ。
食べているのは、抹茶チーズケーキだけど。
音楽が止まる。
イヤホンの充電が切れる。
なので、草々